日本人が作る丁寧なフレンチ
七区にあるレストラン・NAKATANIは、ぼくが作家になったばかりの頃、
よく三島由紀夫の担当編集者だったSさんに連れられて行ってもらった銀座にある老舗のレストランに赴きが似ている。
そこには小さなカウンター席があり、昭和時代の作家たちが陣取り、フランス料理を堪能しながらを文学を語り合っていた。
今もあるかどうかはわからない。あれから、35年の歳月が流れているからである。
そういう時代錯誤も甚だしい、昭和を感じさせるフレンチレストランがパリにある。
日本人のオーナーシェフが腕を振るっている。
佐賀県の唐津で作られた陶器の皿が使われているが、ちゃんとしたフレンチなのである。
つまり、和だしや醤油などは一切使っていないのだけれど、なぜか、ジャパニーズフレンチの香りが漂う。
日仏の歴史は百数十年続いているので、今は日本のフレンチもフランスのフレンチに肩を並べるまでになった。
その上、日本人料理人が作るここのフレンチは、和風ではないのに、独特の味わいを醸し出す。ぼくには銀座の光景が浮かんでくる。
伝統の上に革新的な味わいを注ぎ込んだ、職人の味が、パリで堪能できるのだから嬉しい。
なぜ、ここの料理が昭和を感じるのか、私にはわからない。それは中谷シェフの個性が生み出す、きっと
日本へのノスタルジーのなせる業なのであろう。ミシュランの一つ星レストランであることを最近知ったが、ま、ぼくには関係がない。
星よりも、味で、この店を選んできたので、・・・。
いい肉を余計なソースでごまかすのではなく、生き物へのリスペクトを感じさせる丁寧な調理法で仕上げるシェフの流儀が好きなのだ。
どの料理にも、和の礼儀を感じる。
三島由紀夫先生が生きていたら、お連れしたかった名店である。